免疫蛍光抗体法 -間接法-(松崎 仁美)
細胞内の特定のタンパク質を抗体によって蛍光標識し、その試料に励起光を当て、標識分子が発する蛍光による像を顕微鏡観察することで、対象タンパク質の細胞内での局在・移動を調べる方法である。
特徴として、
・ 明視野では観察できない透明な細胞やタンパク質を容易に可視化できる
・ 特定のタンパク質のみを高い特異性で選択的に可視化できる
・ 複数の蛍光色素を用いれば、複数の細胞やタンパク質の局在を同時に観察できる
・ バックグラウンドが暗黒に近いため、検出感度が他の観察法に比べて非常に高い
ことなどが挙げられる。
原理
ある種の分子は特定の波長の光(励起光)を照射すると分子が光エネルギーを吸収し、そこに含まれる電子が基底状態から励起状態へと遷移する。しかし、励起状態は不安定なので、発光によってエネルギーを放出し、基底状態へ戻る。このとき放出される光を蛍光という。
蛍光色素とは、蛍光を効率よく発するのに適した化学構造をもつ物質のことである。
間接蛍光抗体法では、試料と目的タンパク質に対する一次抗体を反応させた後、蛍光色素で標識した二次抗体を反応させる。その後、励起光を当てて観察する。
準備
器具・機械
・6 ウェルプレート, カバーガラス (18 mm x 18 mm), スライドガラス, パラフィルム, ピンセット, 蛍光顕微鏡
試薬
・PBS (-), paraformaldehyde, Triton X-100, Tween 20, BSA, 封入剤, マニキュア
抗体
◎一次抗体
・ 目的タンパク質に対する抗体
・ タグに対する抗体は
抗 FLAG 抗体 (M2; SIGMA), 抗 HA 抗体 (3F10; Roche) などが使用可能
◎二次抗体
・ 主に Molecular Probes 社のAlexa Fluor 488 or 568 anti-mouse/rabbit/goat/rat IgG を用いている
流れ
↓細胞の準備
↓細胞の固定
↓細胞の膜構造の破壊
↓ブロッキング
↓1次抗体反応
↓2次抗体反応
↓封入
↓観察
操作
細胞の準備
↓6 ウェルプレートの底にカバーガラスを置き、その上に細胞をまく
(必要ならば、細胞をまく前にコラーゲンコートしておく)
↓ベクター DNA をトランスフェクトする
免疫染色
↓培地を除く
↓PBS (-) で 2 回洗浄する
↓4% paraformaldehyde in PBS (-) (2 ml/well) を入れ、室温で 20~30 分間静置する・・・固定
↓PBS (-) で 3 回洗浄する
↓0.1% Triton X-100 in PBS (-) (2 ml/well) を入れ、室温で 30 分間静置する ・・・破壊*1
↓PBS (-) で 3 回洗浄する
↓1% BSA, 0.1% Tween 20 in PBS (-) (2 ml/well) を入れ、室温で 30 ~ 60 分間静置する
・・・ブロッキング・・・
↓ピンセットや針を用いてウェルからカバーガラスを取り出し、パラフィルム上にのせる(以後、細胞が付着した面を上にしてカバーガラスを扱う)*2
↓一次抗体の希釈液をカバーガラス上に滴下する(100 ul/cover glass)*3
↓室温で 1 時間静置する
↓カバーガラスをウェルに戻す
↓0.1% Tween20 in PBS (-) で 3 回洗浄する
↓ウェルからカバーガラスを取り出し、パラフィルム上にのせる
↓二次抗体の希釈液をカバーガラス上に滴下する(100 ul/cover glass)*4, 5
↓室温で 1 時間静置する(遮光)*6
↓カバーガラスをウェルに戻す
↓0.1% Tween20 in PBS (-) で 3 回洗浄する
↓スライドガラスを用意し、封入剤を一滴たらしておく*7
↓カバーガラスをウェルから取り出し、水分を切った後、細胞が付着している面を下にしてスライドガラスの封入剤の上に置く*8
↓カバーガラスの四辺をマニキュアで固定する
↓蛍光顕微鏡で観察する*9
*1. 目的タンパク質が細胞のどこに局在しているかによって、界面活性剤などを使用するかどうか、あるいはその種類(Triton X-100、NP-40、ジギトニンなど)を検討する必要がある。
*2. こうすることで、抗体を節約できる。カバーガラス 1 枚あたり、100 ul の抗体希釈液で十分カバーガラス全体を覆うことができる。
*3. 一次抗体は 1% BSA, 0.1% Tween 20 in PBS (-) で希釈する。
それぞれの抗体によって適当な希釈濃度を検定する必要がある。
抗 FLAG (M2) 抗体は 1 : 500、抗 HA (3F10) 抗体は 1 : 250 程度で良いようである。
*4. 二次抗体は 1% BSA, 0.1% Tween 20 in PBS (-) で希釈する。
1 : 1000 (~2000) 程度で良いようである。
*5. 異なる蛍光色素で標識された二次抗体を使用できれば、同時に複数のタンパク質を染色できる。
*6. 蛍光色素の退色を防ぐ。
*7. 封入剤は市販のものもあるが、home made の場合、調製方法は下記の通り。
*8. 気泡が入らないようにゆっくり、慎重にのせる。
(細胞が付着した面を下にして、カバーガラスの片側をスライドガラスにつけ、そこを軸にゆっくり下ろし、封入剤が自然に広がるのを待つ。)
*9. 励起光が強いほど、また、照射時間が長いほど退色しやすいので注意する。
封入剤
Solution I (0.5 M bicarbonate buffer, pH9.0) の作製
↓sodium carbonate 0.68 g と sodium bicarbonate 3.675 g を MilliQ 水に溶かし、100 ml にする
Solution II の作製
↓p-phenylenediamine dihydrochloride 0.4 g を PBS (-) に溶かす(10 ml を越えないようにする)
↓Solution I で pH 8.0 にあわせる
↓filteration (0.22 um)
↓glycerol 45 ml に Solution II 5 ml を加え、よく混ぜる
↓分注(1~5 ml ずつ)し、アルミホイルで遮光する
↓-80 ℃ で保存する
注) Solution I、glycerol、アルミホイルで包んだ分注用のチューブは先に用意しておき、 の操作を急いで行う(変色してしまうため)。