培養細胞への遺伝子導入法 (石川 恵)
培養細胞への遺伝子導入法としては主に、 リン酸カルシウム法、 リポフェクション法、 DEAE デキストラン法、 エレクトロポレーション法、 マイクロインジェクション法などがあり、それぞれの一般的な特徴は以下のようになっている。
リン酸カルシウム法
正の電荷を持つカルシウムイオンを負の電荷を持つDNA に結合させ、そこにリン酸を加えると、カルシウムイオンとリン酸が結合して複合体の沈澱が生じる。このリン酸カルシウムとDNAの複合体がエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれ、その後、核に移行することにより細胞へ遺伝子が導入されると考えられている。
長所
特殊な装置や技術を必要としない
比較的簡単である
リポフェクション法
陽性荷電脂質などからなる脂質二重膜小胞(リポソーム)と導入するDNAの電気的な相互作用により複合体を形成させ、貪食や膜融合により細胞に取り込ませる方法。必ずしもリポソーム内にDNAを封入しない点がリポソーム法とは異なる。
長所
・ トランスフェクション効率が高い
・ オリゴヌクレオチド、高分子DNA 、mRNA 、二本鎖RNA の導入が可能
・ 操作が簡単かつ短時間で終了するため、同時に多数のサンプル処理が可能。しかも、特別な装置・設備は不要。
・ 他の方法にくらべ、細胞に対する毒性が少ないため、トランスフェクション後の細胞生存率が高く、一過性発現にも安定型発現にも用いることが可能
・ 幅広い細胞に適用できる
短所
・ トランスフェクションの至適条件(細胞密度、DNA 量、リポソーム量、培養時間、培地など)の検討が必要
・ 至適条件の範囲が狭い
・ 一般に試薬が高価
DEAE デキストラン法
DEAE デキストラン法による動物細胞内への遺伝子の取込みや核内への輸送メカニズムは、DEAE デキストランとDNAが複合体を形成して細胞表面に吸着し、エンドサイトーシスによって細胞内へと取り込まれるというモデルが考えられている。
長所
リン酸カルシウム法などに比べ操作が簡単なため50個以上のサンプルを扱うことができ、また、再現性に優れ、結果のばらつきが少ない。
短所
リン酸カルシウム法やリポフェクション法にくらべて遺伝子導入効率が低く、細胞毒性がある
エレクトロポレーション法
高電圧パルスを細胞に加えることにより一過性に脂質二重層の細胞膜構造を不安定化し、DNAを取り込ませる方法。トランスフェクションの効率は電圧・電気パルスの長さ・温度・細胞およびDNAの濃度・バッファー組成の条件により左右される。
長所
操作が簡単で、遺伝子導入効率が高い
短所
高価な機械を必要とする
マイクロインジェクション法
1個の細胞に微細ガラス注入針を通じて試料を導入する方法。原理は簡単ながら、高度な技術を要する。細胞に与えるダメージを最小限に押さえるために可能な限り細い針を用い、きわめて短時間のうちに必要量を注入する必要がある。
長所
・ 特定の細胞だけに導入できる
・ 核と細胞質へ別々に導入できる
・ 溶液であれば分子の種類(核酸・タンパク等)や大きさに限りがない
・ 導入効率が高い(100%)
・ 試料液が極めて少量
短所
・ 特別な装置や技術が必要
・ 浮遊細胞への適用が困難
・ 対象とする細胞数に限りがある
☆ FuGENE 6 Transfection Reagent を用いた方法
FuGENE 6 Transfection Reagent は脂質ベースのTransfection Reagent で、その特徴として、
・ 多くの種類の細胞に対し、非常に高いトランスフェクション効率を得られる
・ 細胞に対する毒性がほとんどない
・ その機能は血清の有無に左右されない
などがあげられる。
☆ 当研究室では主に、「 CellPhect Transfection Kit 」( amersham pharmacia biotech 社)を用いたリン酸カルシウム法と、「 FuGENE 6 Transfection Reagent 」( Roche 社)を用いた方法を用いて細胞への遺伝子導入を行っているので、そのprotocolを紹介する。
Transfection Protocol
Cellphect Transfection Kit (リン酸カルシウム法)
↓ DNA 3 ug をMilli-Q H2O 120 ul に溶解する
↓ Buffer A 120ul (DNA を溶解した液量と等量)加え、vortexしてよく混ぜる
~ RT にて10 min インキュベート
↓ Buffer B 240ul(DNA 溶解液 + Buffer A の液量と等量)加え、vortexにて素早く、
数秒間、撹拌する ~ RT にて15 min インキュベート
↓ このリン酸カルシウム~DNA 溶液を細胞に加え、ゆるやかに拡散させる
↓ 通常の培養条件下でおよそ6 hr インキュベートした後、培地を交換する
FuGENE 6 Transfection Reagent
↓ 1.5 ml チューブにOpti-MEM(GIBCO)400ulを入れる
↓ FuGENE 6 を12ul、Opti-MEMに直接加え、タッピングで撹拌する
~ RT にて5 min 、インキュベート
↓ DNA 4ug に溶液を滴下して加え、タッピングで撹拌する
~ RT にて15 min 、インキュベート
↓ DNA / FuGENE 6 溶液を細胞に滴下して加え、ゆるやかに拡散させる