リン酸化シグナルの検出法 (橋本 泰美)

 

リン酸化シグナル伝達とは・・・
・ プロテインキナーゼが他のキナーゼを基質としてリン酸化することによってシグナルを次々と下流へ伝えている機構である。
またリン酸化とは・・・
・ 化合物とリン酸の間にエステル結合が形成され、それにより化合物にリン酸基を導入すること。(共有結合によるタンパク質の修飾の1つ)
であり、タンパク質を構成するアミノ酸残基のうち、セリン、スレオニン、チロシンはキナーゼによってリン酸基が導入される。
リン酸化の特徴とは・・・
・ キナーゼとホスファターゼにより触媒される迅速な化学的反応であること。
・ カサが大きく、負のチャージを持った官能基であることから、立体構造の変化が生じタンパク質の機能にも変化を生じさせる。
・ 基質となるAPTが細胞内に多く存在している。
ことなどが挙げられる。

このようにタンパク質のリン酸化/脱リン酸化は生体反応において重要な機能を果たしている。培養細胞でのタンパク質リン酸化を検出するには以下の2つの方法が主に用いられている。
(1) リン酸化特異的抗体によるイムノブロッティング法
(2) [32P ]正リン酸で細胞を代謝標識しオートラジオグラフィーで検出する方法
一般的に、正リン酸標識法のほうが感度が高いといわれているが、イムノブロッティングのほうが非常に簡便である。当研究室においては主に(1) の方法を用いているため、こちらについてのみ記述していくことにする。

Principle and purpose
 細胞内においてセリン、スレオニンのリン酸化に比べ、チロシンリン酸化はその割合が少ないことが知られている。
(リン酸化されるタンパクの99%以上がセリン・スレオニンであり、0.1%以下がチロシンであるといわれている)そのため、細胞全体のチロシンリン酸化を検出したい時は正リン酸標識法は適さないため、イムノブロッティングが良く用いられている。イムノブロッティングも主に2つの方法に分けられる。
[1] 細胞全体を用いてリン酸化を検出する場合 : リン酸化特異的認識抗体によるイムノブロッッティング
[2] 特定の基質タンパク質について分析する場合 : 目的のタンパク質を免疫沈降で単離した後、イムノブロッティング

Material
・ ウエスタンに必要な機材、試薬 (→ウエスタンブロッティングの編を参照)
・ 免疫沈降に必要な機材、試薬  (→免疫沈降の編を参照)
・ 各種リン酸化特異的認識抗体
・ 内在の特異的認識抗体
・ Reprobe Buffer
・ NIH-image (画像解析ソフト)

Method 
↓ 各種刺激後、cell-Lysateを調整する
↓ heat-shock at 100℃ for 5min
↓ SDS-PAGEにて電気泳動
↓ Transfer to membrane (PVDF membrane)
↓ Blocking by 5% Skim-milk
↓ wash×3 times
↓ リン酸化特異的認識抗体にて処理
↓ wash×3 times
↓ 酵素標識二次抗体にて処理
↓ wash×3 times
↓ Detection by ECL

↓ Reprobe by Reprobe-Buffer at 50℃ for 30min
↓ wash×3 times
↓ Blocking by 5% Skim-milk
↓ wash×3 times
↓ リン酸化でない内在の特異的認識抗体にて処理
↓ wash×3 times
↓ 酵素標識二次抗体にて処理
↓ wash×3 times
↓ Detection by ECL
↓ 得られたX線fileをNIH-imageなどの画像ソフトにて解析する
( 例 phospho-ERKで得られたバンドの値 / 内在ERKで得られたバンドの値 )
以上の結果、着目したシグナル伝達因子がどの程度リン酸化されているのか定量することができる。

Note
・ 刺激に依存したリン酸化は脱リン酸化されやすく、不安定であるため、Cell-Lysate調整時に脱リン酸化酵素阻害剤を添加する
・ 画像解析する場合、Back-groundが高いと正確な値が検出できないため低くする工夫をする
→ ・Blockingを5% Skim-milk/TBSTで行い4℃、Over-night
・1次抗体の希釈をBlockingと同様に5% Skim-milk/TBSTで希釈し、4℃でOver-night

使用している抗体
抗体名 メーカー
Anti phospho-p44/42 antibody
Cell signaling
Anti ERK2 antibody  
Upstate biotechnology
Anti phosphor-Akt (Ser 473) antibody 
Cell signaling
Anti Akt antibody 
Cell signaling
Anti phosphor-p38 
Cell signaling
Anti phosphor-JNK 
Cell signaling
Anti JNK1 
Santa Cruz Biotechnology

Reference
・ 新培養細胞実験法 羊土社 
・ 分子細胞生物学時点 東京化学同人