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最終更新日  2014.02.26

 

坂巻 純一  〜カナダ・オタワから〜                                           

私は現在、カナダのオタワに位置するChildren’s Hospital of Eastern Ontario Research Instituteに研究室を置くDr. Robert Screatonの指導のもと研究を行っています。ここでは、私がどのように留学先を決めたのか、留学先での研究がどのようなものなのかを簡単にまとめてみました。


留学先の決定まで

留学先を決定する際には様々な条件を考慮に入れると思いますが(研究内容、業績、研究室の雰囲気、国など)、私の場合は、1)興味の対象である糖代謝制御機構の解析を行っており、2)博士過程で学んだ生化学的、分子生物学的手法を活かしつつ、新しい技術(マウスを用いた解析)を得られるような、そして3)精力的な若手のPI(principal investigator)が主催している(研究の進捗状況、方向性をよく話し合うことができるような)研究室という希望に合うような候補を探し、それらの研究室にCV(curriculum vitae、履歴書)とapplication letterを送りました。返事が返ってこないものや、奨学金を持っていれば考慮するといった旨の返事など、なかなかうまくいかないこともありましたが、最終的にDr. Screatonから興味があるという返事を頂き、スカイプでの面接を経て正式に受け入れの承諾を得る事ができました。


生活環境

カナダの首都オタワはカナダの東部に位置し、多数の行政機関が並ぶ都市です。ダウンタウンには様々なお店、劇場、美術館などが並びます。トロントやモントリオールなどの大都市の様な華やかさはありませんが、治安が良く住みやすい街です。夏は湿度が低く、気温は25℃程度までしか上がらないので過ごしやすいです。冬は11月の中頃から雪が降り始め3月の終わりまで続きます。1月、2月は氷点下20℃を下回ることもありますが、スキーやスケートなどのウインタースポーツを楽しめるのが魅力です。また、公用語は英語ですが、ケベック州(公用語はフランス語)に隣接しているため、標識や公共機関でのアナウンスは英語とフランス語の両方が使われており、バイリンガルの人も多数居ます。


研究環境

Children’s Hospital of Eastern Ontario Research InstituteはChildren’s Hospital of Eastern Ontario、University of Ottawa、Ottawa Hospital、Ottawa Hospital Research Instituteから構成される大規模な医療、研究施設に付属する研究所です。研究グループはPI、ポスドク、テクニシャン、学生を含め10人程の中規模のグループで、それぞれ1つから複数の研究テーマを持ちます。実験室は複数の研究グループと共有されており、多くの実験機器、試薬が共有で使用されています。さらに、付属の研究施設の実験機器にもアクセスが可能で、サービス(組織切片の作成やマウスの維持 、管理など)を受けることもできます。研究室間の敷居が低いおかげで、新しい技術の習得も容易にできます。また、共同研究も多く行われており、特別な技術が必要な実験は共同研究を依頼します。当研究室でも、RNAiスクリーニングやキナーゼスクリーニングなど様々なスクリーニングを引き受けています。このように当研究所ではサポート体制が整っており、研究に集中して取り組むことができます。


研究テーマはDr. Screatonと入念にディスカッションをして決め、2週間に1度進捗状況や今後の方針などについて話し合います。それ以外にも、週に1度持ち回りで研究の進捗状況を発表するlab meetingや、研究所内のグループで行われる合同セミナー、年に数回参加するβ細胞、糖尿病関連の学会など、様々な場所で自分の研究を発表する機会があります。また、病院に付属している研究所なので、ground roundsや臨床医の勉強会などに参加する機会もあります。


留学先での研究内容

当研究室の主要テーマの1つは膵臓β細胞の機能制御機構の解明で、特にLkb1(Liver kinase 1)-Ampk (AMP-activated protein kinase)シグナル伝達経路の役割に着目して研究を行っています。膵臓β細胞は血糖降下ホルモンであるインスリンを分泌する細胞で、血糖値の維持に必須な役割を果たしています。肥満、耐糖能異常の段階(2型糖尿病の前段階)において、β細胞は肥大化、そしてインスリン分泌能が増加することにより、血糖値はどうにか維持されています(β細胞の代償作用)。2型糖尿病の前段階から2型糖尿病への進展は、この代償作用の破綻が引き金となっていると考えられています。しかしながら、これらβ細胞機能の変化の分子機構はよく分かっていません。私は 、Ampkファミリーに属するキナーゼであるSalt-inducible kinase 2 (Sik2)のβ細胞における役割の解明をテーマとして研究を進めており、β細胞特異的Sik2ノックアウトマウスを用いて、Sik2がインスリン分泌と血糖値の維持に必要であること、Sik2、 Cyclin-dependent kinase-5 (Cdk5)の活性化共役因子であるCdk5 regulatory subunit 1 (Cdk5r1, p35)、ユビキチンリガーゼPraja2 (Pja2)により構成されるシグナル伝達経路がインスリンの分泌に必須であることを明らかにしました。さらに、Sik2の発現量は肥満モデルマウスとβ細胞機能不全モデルマウスにおいてそれぞれインスリン分泌能と相関しており、β細胞の代償作用におけるSik2の重要性が示唆されましたSakamaki, J. et al. Nat. Cell Biol. (2014))。


最後に

海外で研究を始めて2年半になりますが、最初の頃は慣れない環境、言語で生活や研究で戸惑うことも多々ありました。しかし、研究室の皆の助けもあり今は充実した研究生活を送っています。以上、簡単ではありますが、今私が過ごしている海外での研究生活になります。留学を考えている方の参考になれば幸いです。


略歴

坂巻 純一

2011年筑波大学生命環境科学研究科博士課程修了、同年4月より筑波大学生命名領域学際研究センター 博士研究員、同年10月よりChildren’s Hospital of Eastern Ontario Research Institute Postdoctoral fellow. 博士課程の研究テーマは「アルギニンメチル化とリン酸化の拮抗によるアポトーシスの制御」。現在の研究テーマは膵臓β細胞の機能制御機構の解明。