岡村 永一 〜カナダ・トロントから〜
早いもので、大学院卒業後、慌ただしくカナダ・トロントに渡ってから4ヶ月が過ぎようとしています。こちらでのポスドクとしての研究生活には大分慣れ、毎日忙しくも楽しい日々を送っています。「海外での研究」を語れるほど多くの経験は未だ積んでいませんので、トロントがどんな所か、また、海外に来て感じたこと等を簡単に綴ってみたいと思います。
トロントの日常
トロントの緯度は北海道と同じ辺りで、夏は涼しく快適です。この時期は、家族で公園へ出かけたり、湖畔でローラーブレードをしたり、テラスで食事をしたりと、外の空気を楽しむ人々が多いようです。毎週どこかでパレードやお祭りなどのイベントが開催されており、街全体がとても活気に溢れています。逆に、冬の平均気温は氷点下で、-20℃〜-30℃程になることも珍しくないそうです。快適な夏の内に、皆、外で楽しく過ごそうということのようです。
街中には電車・バス・路面電車といった交通網が張り巡らされ、移動に不自由することはありません。大きなショッピングセンターに行けば大抵のものは手に入りますし、スーパーやコンビニも沢山あり、日常生活に困ることはありません。また、トロントに本拠地を置くメジャーリーグ球団・ブルージェイズの試合等スポーツ観戦や、オペラ・ミュージカルも楽しむ事が出来ます。
さて、トロントの最も大きな特徴は「多国籍文化」であることです。なんと人口の半数はカナダ国外生まれ。街を歩けば多様な人種の人々を目にしますし、英語以外の言語も多く飛び交ってします。中国人街・韓国人街・ギリシャ人街・イタリア人街等々、エスニックタウンが随所に存在し、各国の料理を気軽に楽しむ事が出来ます。各国の雑貨店も沢山あり、興味は尽きません。治安も良いですし、我々外国人にとって過ごしやすい都市だと思います。
トロントでの研究
トロントは、トロント大学をはじめとして病院付属の研究所等、多数の研究機関が密集する、大規模な研究都市でもあります。私が所属するトロント小児病院では、70以上の研究室が運営されていますが、実験室や居室は複数の研究室で共有されており、機器も共有のものが多くあります。セミナーも定期的に合同で開催されており、様々な分野の発表を聞く事が出来ます。このように、こちらでは研究室間の垣根が非常に低く、お互い切磋琢磨しながら協力して研究を進めている印象を受けます。研究機関間での共同研究も多く行われているようです。
こちらに来て印象的であったことは、皆とても活発に議論を行うということです。ボス、学生、ポスドク、テクニシャン等立場に関わらず、皆、躊躇なく対等に議論出来る雰囲気があり、とても良い事だと思います。皆と議論し、お互いの知識や異なる発想を共有することは、研究を進める上で非常に有益です。しかし、逆に、こちらでは自分の主張や疑問点を積極的に伝えなければ、誰も何のアドバイスもしてくれませんし、助けてくれないようです。
深水研究室の学生さんへ
さて、私は今この文章を書きながら、深水研究室での研究生活のことを思い返しています。研究室に所属した当初は、先輩、先生から日々新しい実験を教わり、研究室セミナーでは、実験結果に対してのみならず、話し方やスライドの構成など、プレゼンテーションの仕方に対する指導も受けました。論文を執筆した際には、沢山の指摘やアドバイスを受け、最終的には元々の文章の跡形も無くなるほど改善されたものが出来上がりました。このように、深水研究室に所属していた間に、私は先輩、先生から数多くのことを教えて頂いておりました。深水研究室では、学生に対する「教育システム」が非常にしっかりとしています。先輩、先生の指導に付いて行けば、実力を身につける事ができます。ところが、このような教育システムは海外では稀なようです。ぜひ、皆さんには恵まれた深水研究室の環境を存分に生かし、飛躍して頂きたいと思います。
2013年7月
岡村永一
自己紹介
2004年に筑波大学、第二学群、生物学類入学。卒業研究から博士号取得(2013年)までの間、深水研究室に所属しました(正式には博士後期課程の途中から、谷本先生の教授昇進に伴い、谷本研究室に移動)。真核生物の転写制御機構に興味を持ち、ヒト・βグロビン遺伝子座における遺伝子スイッチングや、マウス・Igf2/H19遺伝子座におけるゲノム刷り込みの解明を主な研究テーマとしました。 現在は、カナダ・トロントのトロント小児病院(Hospital for Sick Children)にラボを構えるJanet Rossant博士のもとで、ポスドクとしてマウス初期発生、幹細胞学の研究に従事しています。