メッセージ

深水教授からのメッセージ

5. 卒業する君たちへ 2017.03.25

  東日本大震災から1ヶ月、2011年4月の青空入学式から始まった筑波大学のキャンパス生活。その新入生達が2014年から4年生の卒論生として深水研で共同研究を開始しました。2017年に修士で修了するまでの6年間、頼もしく成長してくれたことに感謝しています。
2011年4月、4年生から卒論生として深水研で共同研究を開始し、博士号を取るまでのこの6年間、洗練されたDr.になりました。
他大学から、あるいは留学生や社会人として深水研に参画して共同研究を開始し、修士や博士号を取って修了するまでの数年間、君たちにたくさん助けもらいました。
長かったですか? あっという間でしたか? 卒業式の日、君たちの眼差しが未来に向けられていることを感じ、嬉しく思いました。
もしかして、将来少し疲れたとき、何かのターニングポイントのときがあるかも知れません。そして、振り返ってみようかなという気持ちが湧いたとき、深水研究室のドアとHPはいつでもオープンです。
卒業する君たちへ、「心と身体の健康第一」GOOD LUCK!
筑波大学 生命環境科学研究科(生物機能科学専攻)/生命領域学際研究センター
教授 深水昭吉

4. 元大学院生が社会人、現社会人が大学院生 2013.07.23

  7月〜8月の間に研究室の研修旅行に出かけますが、M2(博士前期課程)が中心となって計画し、毎年企画が変わります。「毎年企画が変わる」理由は、受け持つ学年の立案(開催場所や内容)に特徴が出るためです。一昨年は震災のため中止になりましたが、昨年は那須高原に行き、研究室の親睦を深めることを主眼に、スポーツで汗を流し、食事を取りながら話しをする時間が中心となりました。
2013年は、7月12日(金)から2泊3日で伊豆長岡に行ってきました(フォトギャラリー参照)。今回の目玉はキャリアパスセミナーで、M2が先輩達に声を掛け、卒業後の足跡を含めて話してもらう企画でした(元大学院生が社会人)。内容の詳細に今回は触れませんが、卒業生達が活き活きと話してくれており、彼らの活躍が手に取るように感じることができ、嬉しく、そして頼もしく思いました。さらに、社会人大学院生の皆さんにも、就職後になぜPh.D.を取得したいと考えているのか等、彼らの学生時代から今日に至るモチベーションをお話しいただきました(現社会人が大学院生)。社会人になってPh.D.を取得しようと決意した経緯はそれぞれですが、企業活動のグローバル化も要因となっているポイントが印象的でした。
上述のように、製薬系・診断薬系・化学系企業では、海外活動も大きな割合になっています。しかし、「日本の食」への世界的関心・評価が高いことからも、10年以内には食品系企業にもグローバル化の大きな波が押し寄せてくるでしょう。今は20代の学生でも、10年後は30代になって最も活躍が期待される世代になっています。根気強く、地道に取り組むことになりますが、若い時こそ、10年後を見越して思い切った未来像を描き、それに向かって自分自身を磨き上げて欲しいと願っています。社会で活躍の「場」とチャンスを掴むために、皆と違った角度から将来を見詰めてみたらいかがでしょうか?
今回の企画で大変有難かったことは、一番身近な研究室関連の方々に、在校生達が直接に質問できたことです。彼らのために、連休の土日にもかかわらず伊豆長岡にお集まりいただき、心より感謝申し上げます(大塚製薬[博士/卒業生]、帝人ファーマ[博士/卒業生]、アボットジャパン[博士/卒業生、社会人]、第一三共[修士/卒業生]、ナカライテスク[博士/卒業生]、Z会[修士/卒業生]、エーザイ[社会人]、ハウス食品[論文博士])。
筑波大学 生命環境科学研究科(生物機能科学専攻)/生命領域学際研究センター
文部科学省 新学術領域研究 「生命素子による転写環境と代謝クロストーク制御」
(転写代謝システム)領域代表 教授 深水昭吉

3. 研究に取り組んでいる皆さんへ 2013.07.06

  2011年、なでしこJAPANが破竹の勢いでチャンピオンになる活躍をしましたが、テレビや新聞も、サッカーの女子ワールドカップが開催されていることを当初は大きく報じていませんでした。多くの日本人が、なでしこ達が予選リーグをグループ2位で通過し、決勝トーナメントに進んでいることも気にしていなかったように思います。
ところが、準々決勝で世界ランキング2位のドイツに勝ち、準決勝ではスウェーデンにも勝って、いよいよ世界ランキング1位のアメリカとの対戦になって初めて「そうだったの?!」、と応援体制が始まったといっても過言ではありませんでした。しかし、なでしこ達はアジア予選大会を勝ち抜き、上述のように予選リーグを突破し、決勝戦まで進んできたのです。その間、彼女達の活躍はあまり注目されませんでしたが、その彼女達を突き動かしてきたもの(モチベーション)は一体何だったのでしょうか?
『内発的な動機付け』の重要性は、1950年に発表されたモチベーション(動機付け)に関する研究から指摘されていました(「モチベーション3.0」ダニエル・ピンク著 [大前研一訳] 講談社、2010年)。しかし、その後世界の経済は大きく発展し、能力主義等による外的(=与えられた)動機付けが先行していき、上記の研究は忘れ去られていきました。ところが、なでしこ達が再び『内発的な動機付け』に光をあててくれることになったのです。それは、ただ一つのキーポイント、サッカーが大好きだったということです。
さて、この内発的動機付けとは、内側から湧き上がる興味や目的に対して報酬を求めるのではなく、自身を突き動かして物事を進めていける「力」のことです。きれい事を言うな とお叱りの言葉が聞こえてきそうですが、皆さんはどういう気持ちで研究に取り組んでいるのでしょうか。卒業のため、学位のため、論文のため、就職のため、、、全て正解です。もし可能なら、そこに『内発的な動機付け』のエッセンスを振りかけてみませんか? さらに進展することが期待できますし、突破口が拓けるかも知れません。
筑波大学 生命環境科学研究科(生物機能科学専攻)/生命領域学際研究センター
文部科学省 新学術領域研究 「生命素子による転写環境と代謝クロストーク制御」
(転写代謝システム)領域代表  教授 深水昭吉

2. Yes, you can!

  「でも。。。」という言葉が、最初に出ていませんか? 心の中でつぶやいていませんか? 「but,,,,」、、そこには「No, I can't.」が深層心理として隠れている気がします。この言葉が出てくるのは、過去の失敗体験に基づいている場合もあるでしょうし、未体験のことに踏み出せないでいるのかも知れません。
「でも。。。」という言葉には、強力な【負の引力】が備わっているのをご存じですか? 頭によぎったアイデアも、「でも。。。」の一言によってできない理由が沢山集まってきてしまいます。そこで、「でも。。。」の代わりに、「では!(→こう考えたらどうだろう)」を口にしてみたらどうでしょうか。不思議なことに、多くの人が耳を傾けてくれるようになり、『正の引力』が生まれます。さらに、「では!」というあなたの意見に対して、予想以上の(賛成・反対を含めた)アドバイスが集まってきます。
バラク・オバマ氏は、経済危機で混乱しているアメリカの救世主としての期待を背負い、第44代合衆国大統領への就任が決まりました。初の黒人大統領として期待と不安の中での選挙でしたが、遊説では次の言葉で国民を惹き付けてきました。オバマ氏に大きな支持を集めた『正の引力』となった魔法の言葉は、
Yes, you can!
もしあなたが失敗を経験していたら、それを次のチャレンジに活かしてみませんか? まだ一度も経験していないことに、失敗を恐れずにチャレンジしてみませんか? 私達の研究室は、失敗・挫折、そして成功を通して物事を学び、社会に貢献するプロの研究者として活躍するために、サイエンスに魅力を感じているメンバーが集まる自分磨きの「場」です。もしあなたが新しいことにチャレンジしたいと考えていたら、一緒に取り組んでみいませんか?
Yes, you can!
筑波大学 生命環境科学研究科(生物機能科学専攻)/生命領域学際研究センター
文部科学省 新学術領域研究 「生命素子による転写環境と代謝クロストーク制御」
(転写代謝システム)領域代表 教授 深水昭吉

1. 出会いと勇気、そしてモチベーション 2013.07.16

  実験に明け暮れている大学院生,意外に余裕のある大学院生,博士課程への進学・編入学を控えている修士課程の大学院生,大学院に進学予定の学類・学部生,大学院への進学を考慮中の学類・学部生,就職を間近に控えている大学院生・学類生・学部生,皆さんは「研究する人生」について悩んだこと/考えたことはありませんか?
来年/再来年の自分をイメージできずに,何らかの疑問を持っていませんか? 研究テーマのことや,研究分野のことで悩んでいませんか? 壁にぶつかっているが,何とか打ち破りたいと打開策を探していませんか? 割り切って研究に打ち込んでいるとは言え,フッとした時に3年後の自分を具体的に思い描けないことはありませんか?
私は浪人したり,大学3年生の時に父を亡くし一時は就職を考えたり,挙げ句の果てには筑波大学・博士コースの大学院試験に(成績不良のため)落ちてしまいました.しかし,環境科学研究科(修士課程)を終えてから,恩師の先生や諸先輩方の応援のお陰で博士課程に編入学でき,研究者の道を歩んでいます.
その後はアメリカに留学し,世界最高峰の環境で研究に打ち込み,母校に戻りました.自慢ではありませんが,その間は挫折と自信喪失の繰り返しです.では,なぜ「研究する人生」に魅力があるのでしょうか? それは,同じく悩み,しかしそれを克服しながら自分の道を切り拓いている素晴らしい研究者達との“出会い”があるからなのです.
アメリカ合衆国第35代大統領に43歳の若さで就任したジョン・F・ケネディーは,「物を失えば小さく失う.信頼を失えば大きく失う.しかし,“勇気”を失えば全てを失う.」と若者にメッセージを送っています.あなた方だけではありません.皆考え,悩んで,そして打開策を模索しています.ケネディーも“勇気”と自信を持って「キューバ危機」を乗り越え,「アポロ計画」を実行したのです.
“研究環境”とは,単に施設の新しさや設備の充実度の問題だけではありません.そこに集う若者達のアクティビティーとモチベーションの高さが最も重要であり,だからこそ“人との出会い”が自分自身を見つめ直す原動力になることがあるのです.その意味でも,筑波大学・生命環境科学研究科や先端学際領域研究センターは世界有数の研究環境を有しているところです.私達の研究室に参加して新しい出会いを発見し,“勇気”と自信を持ってあなた自身の道を切り拓いて下さい.
筑波大学 生命環境科学研究科(生物機能科学専攻)/生命領域学際研究センター
文部科学省 新学術領域研究 「生命素子による転写環境と代謝クロストーク制御」
(転写代謝システム)領域代表 教授 深水昭吉

海外だより

岡村 永一 〜カナダ・トロントから〜 2013.07.31

  早いもので、大学院卒業後、慌ただしくカナダ・トロントに渡ってから4ヶ月が過ぎようとしています。こちらでのポスドクとしての研究生活には大分慣れ、毎日忙しくも楽しい日々を送っています。「海外での研究」を語れるほど多くの経験は未だ積んでいませんので、トロントがどんな所か、また、海外に来て感じたこと等を簡単に綴ってみたいと思います。

トロントの日常
  トロントの緯度は北海道と同じ辺りで、夏は涼しく快適です。この時期は、家族で公園へ出かけたり、湖畔でローラーブレードをしたり、テラスで食事をしたりと、外の空気を楽しむ人々が多いようです。毎週どこかでパレードやお祭りなどのイベントが開催されており、街全体がとても活気に溢れています。逆に、冬の平均気温は氷点下で、-20℃〜-30℃程になることも珍しくないそうです。快適な夏の内に、皆、外で楽しく過ごそうということのようです。
街中には電車・バス・路面電車といった交通網が張り巡らされ、移動に不自由することはありません。大きなショッピングセンターに行けば大抵のものは手に入りますし、スーパーやコンビニも沢山あり、日常生活に困ることはありません。また、トロントに本拠地を置くメジャーリーグ球団・ブルージェイズの試合等スポーツ観戦や、オペラ・ミュージカルも楽しむ事が出来ます。
さて、トロントの最も大きな特徴は「多国籍文化」であることです。なんと人口の半数はカナダ国外生まれ。街を歩けば多様な人種の人々を目にしますし、英語以外の言語も多く飛び交ってします。中国人街・韓国人街・ギリシャ人街・イタリア人街等々、エスニックタウンが随所に存在し、各国の料理を気軽に楽しむ事が出来ます。各国の雑貨店も沢山あり、興味は尽きません。治安も良いですし、我々外国人にとって過ごしやすい都市だと思います。

トロントでの研究
  トロントは、トロント大学をはじめとして病院付属の研究所等、多数の研究機関が密集する、大規模な研究都市でもあります。私が所属するトロント小児病院では、70以上の研究室が運営されていますが、実験室や居室は複数の研究室で共有されており、機器も共有のものが多くあります。セミナーも定期的に合同で開催されており、様々な分野の発表を聞く事が出来ます。このように、こちらでは研究室間の垣根が非常に低く、お互い切磋琢磨しながら協力して研究を進めている印象を受けます。研究機関間での共同研究も多く行われているようです。
こちらに来て印象的であったことは、皆とても活発に議論を行うということです。ボス、学生、ポスドク、テクニシャン等立場に関わらず、皆、躊躇なく対等に議論出来る雰囲気があり、とても良い事だと思います。皆と議論し、お互いの知識や異なる発想を共有することは、研究を進める上で非常に有益です。しかし、逆に、こちらでは自分の主張や疑問点を積極的に伝えなければ、誰も何のアドバイスもしてくれませんし、助けてくれないようです。

深水研究室の学生さんへ
  さて、私は今この文章を書きながら、深水研究室での研究生活のことを思い返しています。研究室に所属した当初は、先輩、先生から日々新しい実験を教わり、研究室セミナーでは、実験結果に対してのみならず、話し方やスライドの構成など、プレゼンテーションの仕方に対する指導も受けました。論文を執筆した際には、沢山の指摘やアドバイスを受け、最終的には元々の文章の跡形も無くなるほど改善されたものが出来上がりました。このように、深水研究室に所属していた間に、私は先輩、先生から数多くのことを教えて頂いておりました。深水研究室では、学生に対する「教育システム」が非常にしっかりとしています。先輩、先生の指導に付いて行けば、実力を身につける事ができます。ところが、このような教育システムは海外では稀なようです。ぜひ、皆さんには恵まれた深水研究室の環境を存分に生かし、飛躍して頂きたいと思います。

2013年7月
岡村永一

自己紹介
  2004年に筑波大学、第二学群、生物学類入学。卒業研究から博士号取得(2013年)までの間、深水研究室に所属しました(正式には博士後期課程の途中から、谷本先生の教授昇進に伴い、谷本研究室に移動)。真核生物の転写制御機構に興味を持ち、ヒト・βグロビン遺伝子座における遺伝子スイッチングや、マウス・Igf2/H19遺伝子座におけるゲノム刷り込みの解明を主な研究テーマとしました。現在は、カナダ・トロントのトロント小児病院(Hospital for Sick Children)にラボを構えるJanet Rossant博士のもとで、ポスドクとしてマウス初期発生、幹細胞学の研究に従事しています。

坂巻 純一  〜カナダ・オタワから〜  2014.02.26

  私は現在、カナダのオタワに位置するChildren’s Hospital of Eastern Ontario Research Instituteに研究室を置くDr. Robert Screatonの指導のもと研究を行っています。ここでは、私がどのように留学先を決めたのか、留学先での研究がどのようなものなのかを簡単にまとめてみました。

留学先の決定まで
  留学先を決定する際には様々な条件を考慮に入れると思いますが(研究内容、業績、研究室の雰囲気、国など)、私の場合は、1)興味の対象である糖代謝制御機構の解析を行っており、2)博士過程で学んだ生化学的、分子生物学的手法を活かしつつ、新しい技術(マウスを用いた解析)を得られるような、そして3)精力的な若手のPI(principal investigator)が主催している(研究の進捗状況、方向性をよく話し合うことができるような)研究室という希望に合うような候補を探し、それらの研究室にCV(curriculum vitae、履歴書)とapplication letterを送りました。返事が返ってこないものや、奨学金を持っていれば考慮するといった旨の返事など、なかなかうまくいかないこともありましたが、最終的にDr. Screatonから興味があるという返事を頂き、スカイプでの面接を経て正式に受け入れの承諾を得る事ができました。

生活環境
  カナダの首都オタワはカナダの東部に位置し、多数の行政機関が並ぶ都市です。ダウンタウンには様々なお店、劇場、美術館などが並びます。トロントやモントリオールなどの大都市の様な華やかさはありませんが、治安が良く住みやすい街です。夏は湿度が低く、気温は25℃程度までしか上がらないので過ごしやすいです。冬は11月の中頃から雪が降り始め3月の終わりまで続きます。1月、2月は氷点下20℃を下回ることもありますが、スキーやスケートなどのウインタースポーツを楽しめるのが魅力です。また、公用語は英語ですが、ケベック州(公用語はフランス語)に隣接しているため、標識や公共機関でのアナウンスは英語とフランス語の両方が使われており、バイリンガルの人も多数居ます。

研究環境
  Children’s Hospital of Eastern Ontario Research InstituteはChildren’s Hospital of Eastern Ontario、University of Ottawa、Ottawa Hospital、Ottawa Hospital Research Instituteから構成される大規模な医療、研究施設に付属する研究所です。研究グループはPI、ポスドク、テクニシャン、学生を含め10人程の中規模のグループで、それぞれ1つから複数の研究テーマを持ちます。実験室は複数の研究グループと共有されており、多くの実験機器、試薬が共有で使用されています。さらに、付属の研究施設の実験機器にもアクセスが可能で、サービス(組織切片の作成やマウスの維持 、管理など)を受けることもできます。研究室間の敷居が低いおかげで、新しい技術の習得も容易にできます。また、共同研究も多く行われており、特別な技術が必要な実験は共同研究を依頼します。当研究室でも、RNAiスクリーニングやキナーゼスクリーニングなど様々なスクリーニングを引き受けています。このように当研究所ではサポート体制が整っており、研究に集中して取り組むことができます。

  研究テーマはDr. Screatonと入念にディスカッションをして決め、2週間に1度進捗状況や今後の方針などについて話し合います。それ以外にも、週に1度持ち回りで研究の進捗状況を発表するlab meetingや、研究所内のグループで行われる合同セミナー、年に数回参加するβ細胞、糖尿病関連の学会など、様々な場所で自分の研究を発表する機会があります。また、病院に付属している研究所なので、ground roundsや臨床医の勉強会などに参加する機会もあります。

留学先での研究内容
  当研究室の主要テーマの1つは膵臓β細胞の機能制御機構の解明で、特にLkb1(Liver kinase 1)-Ampk (AMP-activated protein kinase)シグナル伝達経路の役割に着目して研究を行っています。膵臓β細胞は血糖降下ホルモンであるインスリンを分泌する細胞で、血糖値の維持に必須な役割を果たしています。肥満、耐糖能異常の段階(2型糖尿病の前段階)において、β細胞は肥大化、そしてインスリン分泌能が増加することにより、血糖値はどうにか維持されています(β細胞の代償作用)。2型糖尿病の前段階から2型糖尿病への進展は、この代償作用の破綻が引き金となっていると考えられています。しかしながら、これらβ細胞機能の変化の分子機構はよく分かっていません。私は 、Ampkファミリーに属するキナーゼであるSalt-inducible kinase 2 (Sik2)のβ細胞における役割の解明をテーマとして研究を進めており、β細胞特異的Sik2ノックアウトマウスを用いて、Sik2がインスリン分泌と血糖値の維持に必要であること、Sik2、 Cyclin-dependent kinase-5 (Cdk5)の活性化共役因子であるCdk5 regulatory subunit 1 (Cdk5r1, p35)、ユビキチンリガーゼPraja2 (Pja2)により構成されるシグナル伝達経路がインスリンの分泌に必須であることを明らかにしました。さらに、Sik2の発現量は肥満モデルマウスとβ細胞機能不全モデルマウスにおいてそれぞれインスリン分泌能と相関しており、β細胞の代償作用におけるSik2の重要性が示唆されました(Sakamaki J et al. Nat. Cell Biol.  (2014))。

Ottawa/ From Dr. Sakamaki

最後に
  海外で研究を始めて2年半になりますが、最初の頃は慣れない環境、言語で生活や研究で戸惑うことも多々ありました。しかし、研究室の皆の助けもあり今は充実した研究生活を送っています。以上、簡単ではありますが、今私が過ごしている海外での研究生活になります。留学を考えている方の参考になれば幸いです。

略歴
坂巻 純一
2011年筑波大学生命環境科学研究科博士課程修了、同年4月より筑波大学生命名領域学際研究センター 博士研究員、同年10月よりChildren’s Hospital of Eastern Ontario Research Institute Postdoctoral fellow. 博士課程の研究テーマは「アルギニンメチル化とリン酸化の拮抗によるアポトーシスの制御」。現在の研究テーマは膵臓β細胞の機能制御機構の解明。

高橋 悠太  〜アメリカ・サンディエゴから〜  2014.03.17

  私は2011年に深水教授の下で博士学位を取得し、現在、サンディエゴ市、ラホヤ地区に位置するSalk研究所で、研究に励んでおります。今回は、こちらでの生活や研究について、簡単にご紹介させて頂きます。

サンディエゴについて
  カリフォルニア州の最南端に位置し、メキシコ国境に接するサンディエゴは、年間を通じて温暖で、湿度が低く、過ごしやすい気候です。州内ではロサンゼルスに次いで大きな都市ですが、どこかゆったりとしている土地柄が魅力といわれています。日本人も多く住んでおり、日系スーパーなどで日本のものを購入することができ、とても生活しやすい都市です。

研究について
  私はSalk研究所、Belmonte研究室に所属しております。Belmonte研究室は、これまで、生物の発生分野において研究を行ってきており、近年ではヒトiPS細胞を用いた病気モデルの開発や、それとジーンターゲッティング技術を組み合わせた細胞修復の研究について優れた報告を続けています。Belmonte研究室では、様々な研究背景をもつ19人のポスドクが所属しており(2014年3月現在)、各々が持っている知識や手技、得意分野を活かしながら、ときに協力して研究を進めています。

Salk Institute/ From Dr. Takahashi

最後に
  こちらでの、研究をスタートとしてから約1年半が経ちました。今は、海外での研究だからといって、特別に必要なことはあまりないと感じています。ただ、日本で学んだ、逃げずに、真摯に、愚直に取り組む姿勢を維持するよう、心がけています。

略歴
高橋悠太(Yuta Takahashi)
2011年に深水教授の下、博士学位を取得。筑波大学生命領域学際研究センター研究員を経て、2012年9月からSalk研究所、Belmonte研究室、研究員。2014年3月から、筑波大学生命領域学際研究センター・助教(深水研究室)。

社会人大学院生からのメッセージ

菅原 道子 2013.07.31

エーザイ株式会社 筑波研究所 ネクストジェネレーションシステムズ機能ユニット

1. 深水研を選んだ理由
  博士課程 社会人特別選抜枠を知ったのは会社の知り合いを通じてでした。お恥ずかしい話ですが、私の研究分野が先生と異なるため、入学までは先生の研究分野をあまり詳しくは存じ上げませんでした。深水先生にご挨拶に伺い、初めてお話しさせていただいた時の印象は、とても温和な方で、異なる分野の私の話題にとても熱心に耳を傾けていただき、この先生のもとで研究をしたいと思ったことを覚えています。

2.社会人大学院生の研究内容や研究の進め方
  私の研究テーマは「in vitroとin vivoにおける癌細胞の代謝酵素の変化」について調べることでした。薬剤の開発では、まず、株化したヒト癌細胞を用いてin vitroで効果を評価した後、ヒト癌細胞を移植したマウスに投与してin vivoでの効果を確かめます。実際には、用いる癌細胞は一緒でもin vitroとin vivoでは薬剤の効果が予想と異なることがあります。その原因の一つとして,細胞の置かれている環境の違いによる薬物代謝酵素の変動に着目し、in vitroとin vivoにおける癌細胞の薬物代謝酵素の発現や活性の違いを調べました。

  最初は別のテーマの研究をスタートしたのですが、大学院に入学して間もなく、諸事情により最初のテーマを変更してのスタートすることとなり、とても焦ったことを覚えています。しかし、最終的には3年間で2本の論文を発表することができました。その間、先生と定期的にディスカッションをさせていただきました。その中で、研究の方向性だけではなく、論文投稿においても多くのアドバイスをいただき大変感謝しております。私の研究分野は、創薬の開発ステージにおける課題であったことから、先生とのディスカッションを通して客観的に創薬の流れと研究課題の意義について説明することの大切さも学ぶことができました。

3.研究室希望者へのメッセージ
  研究内容もさることながら、深水先生の人柄にはいつも暖かいものを感じています。それは、そこに集う方々もとてもフレンドリーだということに表れているのかもしれません。学生の指導という点に関しても、研究という枠だけではなく、その後社会人として仕事をしていく上での大切なことを常に意識されているように思います。深水研では、各種親睦会やセミナーを通じて学内外の方の話を聞く機会や交流の機会がありますので、これも大きな魅力の一つではないかと思います。研究では、自分で考え、考えを発表・報告し、新しい行動(実験)につなげていく、というサイクルが進みますが、これは研究者であるかどうかに関係なく、社会人として生活していく上で必要なことだと思います。信頼できる先生や切磋琢磨できる仲間、そして学内外との交流の場が多いことが、深水研の大きな魅力だと思います。迷っている方は、ぜひ深水先生やラボのメンバーとお話ししてみてください。

嶋田 崇史 2013.07.06

株式会社島津製作所 ライフサイエンス研究所 (島津製作所・国立がん研究センター 産学連携研究室 プロジェクトリーダー)

2011年3月 筑波大学・深水研 博士後期課程修了

1.博士号へのモチベーションと深水研を選んだ理由
  私は学生時代に、大学院への進学をある意味失敗しました。そのハンディーを克服し、それでも研究者として生きていきたいという思いを消し去ることが出来ませんでした。社会人になって10年以上経ち、業務が研究開発職に異動となったのをきっかけに、直属の上司に博士号取得の希望を伝えました。医学部・金保教授の強力な推薦もあり、深水教授のもと博士号を目指すことを決心しました。筑波大学の中でも、特に異彩を放つTARAセンターでの深水研究室に、非常に新鮮な魅力を感じたことは今でも鮮明によみがえります。実験科学でラボを運営するそのスタイルにも尊敬の念を強く感じます。

2.社会人博士課程の実情
  企業に所属しながら博士号を目指すことは、その所属企業の体質に大きく左右されると思います。島津製作所では社員の博士号取得に対して、現在の業務遂行が大前提で、その上で個人のモチベーションとのバランスがとれるなら、進学を許可するというスタイルです。しかし実際には、会社の仕事だけでも相当な時間がかかります。社会人大学院を選択することは、すなわち深夜と休日の時間をすべて使ってでも博士号を目指す強い精神力と、会社に対する説得力が必要となります。課程博士の学生より圧倒的に少ない研究時間に対する日々の焦燥感は、二度と経験したくない思い出のひとつです。また社会人博士課程の場合、大学院に所属していても実際には、ラボの思想や教育を受けるというもっとも本質的なことを得にくいと感じます。そのため研究活動の一環として、積極的な情報交換や、修了後の交流も重要です。大学研究者と企業研究者との最大の違いは、「知的好奇心の実現」と「新規技術の応用分野選択」であると考えています。大学では自分の興味にすべてを投入できますが、企業研究者はその選択肢が広いのが特徴かもしれません。どちらが良いかは同じ土俵で語れませんが、少なくとも両方の立場で必須であるのは、確かな目利き力です。

3.研究室希望者へのメッセージ
  学位を取得して得られるものは、具体的な研究開発への大きなモチベーションだと思います。漠然とした研究への好奇心から、より具体的で夢のある研究へ向かって、その第一歩を踏み出せるきっかけになります。深水研はビッグラボにも関わらず、教員と学生の距離が近いフラットな研究室です。また、ゲノム科学をベースに、新しいサイエンスを融合していく発展的な指向、複合領域研究に直接触れることのできる、日本でも数少ないラボの一つです。さらに、深水研の大きな特徴は、大学として当たり前のようで、実は極めて難しい課題であります、研究と教育の両輪に真正面から取り組む姿勢です。独創的な研究とそれを支える思想や方法論を学び、自分の研究に生かしていくには、つくば市という土地柄もあり、深水研は非常に恵まれたラボ環境です。そして私自身も深水研の卒業生として、質量分析を中心としたバックアップ、共同研究を今後とも継続したいと思っております。大学や企業に関わらず、今後の進路の中で研究者として活躍されたい方々は、ぜひ、深水教授および深水研のメンバーと一緒に学ばれることをおすすめします。

内藤 厚志 2013.07.06

ライオン株式会社 研究開発本部 リビングケア研究所

1. 深水研を選んだ理由
  私が博士課程 社会人特別推薦枠の存在を知ったのは、会社の上司を通してです。その上司は深水教授の後輩に当たり、私を紹介してくれたのが最初のキッカケです。それまでにも一度深水教授とは筑波大学主催のセミナーで名刺交換をさせて頂いており、お名前も学会・論文を通じて存じ上げておりました。直接ご挨拶にお伺いし、お話をさせて頂いたとき、深水教授の人柄を目の当たりにし、また研究・教育理念等をお聞かせ頂いたことにより、深水教授に惹かれ、その下でトライしたいと思いました。

2. 社会人大学院生の研究内容や研究自体の進め方
  研究内容は『男性ホルモンに着目した毛周期における毛成長メカニズムの解析』です。判りやすく言うと『男性型脱毛メカニズムの解析』です。本研究は2000年に入社してから6年間の研究内容となります。深水教授とのディスカッションにより、本内容を論文投稿に値するレベルにまでブラッシュアップ致しました。具体的には論文のまとめ方、データの補足といった論文内容、投稿先についてディスカッションをさせて頂き、またReject, Reviseへの対応にもアドバイスを頂きました。

3. 早期卒業のメリットやデメリット
  メリットは短期に集中して研究内容をまとめることができるという点です。普段の仕事と並行で論文投稿等を行うので、つい遅れがちになってしまいますが、早期卒業という目標を持つことにより短期で集中して実施することができました。デメリットは研究の深堀ができない点です。しかしながら、研究のまとめ方、進め方といった研究に必要な考え方は学ぶことができましたので、今後の研究に活かしていきたいと思います。

4. 研究室希望者へのメッセージ
  深水教授は世界を股にかける多忙な先生ですが、親身になって一学生と接して下さいす。研究だけでなく、色々なお話が聞け、有意義な時間が過ごせると思います。また、入学してからわかったのですが、深水研究室の方々はとても温かみがあり、フレンドリーです。そのような研究室で、自分の研究の棚卸ができたことは恵まれていたと思います。これから入学を希望される方々も是非、チャレンジ精神を持って、深水研究室でトライされてはいかがでしょうか?少々迷ってる方もまずは深水教授とお話をされては?頑張って下さい。