最終更新日 2013.05.21
最終更新日 2013.05.21
FOXO1の転写調節メカニズムとして、様々な翻訳後修飾の存在が明らかになっています(下図)。その先駆けとなったのは 1999年、Brunetらによるインスリンシグナル依存的なリン酸化によるFOXO1の転写抑制メカニズムの発見でした。
4-1. FOXO1の多彩な翻訳後修飾
リン酸化
転写因子であるFOXO1は、通常核内に局在して標的遺伝子の転写を活性化しています。ところがインスリンやIGF-Iといったホルモンのシグナルが受容体を介して細胞内に伝達されると、リン酸化酵素であるAkt/PKBが活性化されて核内に移行し、FOXO1の3ヶ所のセリン/スレオニン残基がリン酸化します。その結果、FOXO1は転写の場である核から細胞質へと移行し、転写は抑制されます。
ユビキチン化
ユビキチンはタンパク質の翻訳後修飾分子であり、ポリユビキチン鎖の付加はプロテアソームで分解されるタンパク質の目印になることがわかっています。我々は、FOXO1 がこのユビキチン化修飾とプロテアソームでの分解制御を受けること、またユビキチン化されるためにはFOXO1がAktによってリン酸化され、かつ細胞質に局在していることが必要であることを明らかにしました1。
アセチル化・脱アセチル化
我々は以前から、FOXO1が転写コアクチベーターであるCBP (CREB-binding protein) と結合することを見出していました。CBPは多くの転写因子と結合することでプロモーター上にリクルートされ、転写開始複合体の形成に寄与する一方、ヒストンのリジン残基をアセチル化することで転写を活性化すことが知られています。我々はCBPがFOXO1の転写を活性化する一方で、直接アセチル化してDNA結合能を低下させることを明らかにしました2。この発見に基づき、我々は “FOXO1はCBPを介して転写開始複合体をDNA上にリクルートし、転写を活性化した後、CBPによってアセチル化されてプロモーターから解離し、転写が終結する”という二段階の転写制御モデル“Hit and away model”を提唱しています。
また我々はこの論文で同時に、FOXO1のSIRT1による脱アセチル化についても報告しています。SIRT1はSirtuinファミリーに属するNAD依存的な脱アセチル化酵素であり、線虫においてはオルソログであるsir-2.1の過剰発現で寿命が延長することが報告されていました。後述するように、線虫ではDAF-16も長寿遺伝子としてよく知られていたことから、我々はFOXO1とSIRT1の分子間相互作用を生化学的に解析し、SIRT1が脱アセチル化活性依存的にFOXO1の転写を活性化することを見出しました2。
アセチル化とリン酸化のクロストーク
前述したFOXO1のアセチル化部位がAktによるリン酸化部位と近接していたことから、両者の影響を検討したところ、FOXO1はアセチル化されるとリン酸化修飾されやすくなることを見出しました3。この分子メカニズムとして、FOXO1のアセチル化がDNA結合能を減弱させることでDNAにマスクされていたリン酸化ターゲット部位を露出させ、Aktによるリン酸化を受けやすくするというモデルを考えています。
アルギニン残基のメチル化
アルギニン残基のメチル化を触媒するPRMT(protein arginine methyltransferase)ファミリーは、哺乳類では11種類からなり、このうちPRMT1は転写制御、DNA修復やシグナル伝達制御など多岐にわたる細胞機能に関与しています。我々は、PRMT1がFOXO1のAktリン酸化コンセンサス配列 (RxRxxS/T, xは任意のアミノ酸)内の2ヶ所のアルギニン残基をメチル化すること、またこのメチル化はAktによるリン酸化を阻害することを明らかにしました4(下図)。すなわちPRMT1は、FOXO1をアルギニンメチル化することでインスリンシグナルと拮抗し、FOXO1の転写活性を維持していると考えられます。さらに興味深いことに、このPRMT1によるAktコンセンサス配列のメチル化は、アポトーシス促進因子であるBAD(Bcl-2 antagonist of cell death)でも認められ、FOXO1と同様にAktによるリン酸化が阻害されました5。以上の知見は、PRMT1によるAkt基質のアルギニンメチル化が、Aktシグナル伝達経路の抑制機構として普遍的に働いている可能性を示唆しており、我々はこれをアルギニンメチル化コードと呼んでいます。
その他の翻訳後修飾
我々はFOXO1において、上述した修飾以外にも、Erkやp38によるリン酸化6やPCAFによるアセチル化7、PARP-1によるポリADPリボシル化8などを発見しています。一方で海外のグループからも、リジンメチル化やモノユビキチン化、糖鎖付加などが報告されており、以上を踏まえると、FOXO1の多重翻訳後修飾による活性調節機構が、他に類を見ないほど複雑かつ巧妙であることが示唆されます9。
1.Matsuzaki H., Daitoku H., Hatta M., Tanaka K. and Fukamizu A.
Insulin-induced phosphorylation of FKHR (Foxo1) targets to proteasomal degradation
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 11285-11290 (2003)
2.Daitoku H., Hatta, M., Matsuzaki H., Aratani S., Oshima T., Miyagishi M., Nakajima T. and Fukamizu A.
Silent information regulator 2 potentiates Foxo1-mediated transcription through its deacetylase activity
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 10042-10047 (2004)
3.Matsuzaki H., Daitoku H., Hatta M., Aoyama H., Yoshimochi K. and Fukamizu A.
Acetylation of Foxo1 alters its DNA-binding ability and sensitivity to phosphorylation
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 11278-11283 (2005)
4.Yamagata K.*, Daitoku H.*, Takahashi Y., Namiki K., Hisatake K., Kako K., Mukai H., Kasuya Y. and Fukamizu A.
Arginine methylation of FOXO transcription factors inhibits their phosphorylation by Akt
Mol. Cell 32, 221-231 (2008)
*These authors contributed equally to this work.
5.Sakamaki JI, Daitoku H., Ueno K., Hagiwara A., Yamagata K. and Fukamizu A.
Arginine methylation of BCL-2 antagonist of cell death (BAD) counteracts its phosphorylation and inactivation by Akt
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 15, 6085-6090 (2011)
6.Asada S., Daitoku H., Matsuzaki H., Saito T., Sudo T., Mukai H., Iwashita S., Kako K., Kishi T., Kasuya Y. and Fukamizu A.
Mitogen-activated protein kinases, Erk and p38, phosphorylate and regulate Foxo1
Cell Signal. 3, 519-527 (2007)
7.Yoshimochi K., Daitoku H. and Fukamizu A.
PCAF represses transactivation function of FOXO1 in an acetyltransferase-independent manner
J. Recept. Signal. Transduct. 30, 43-49 (2010)
8.Sakamaki JI., Daitoku H., Yoshimochi K., Miwa M. and Fukamizu A.
Regulation of FOXO1-mediated transcription and cell proliferation by PARP-1
Biochem. Biophys. Res. Commun. 382, 497-502 (2009)
9.Daitoku H., Sakamaki JI. and Fukamizu A.
Regulation of FoxO transcription factors by acetylation and protein-protein interactions
Biochem. Biophys. Acta. 1813, 1954-1960 (2011)
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